慢性的な疲れに陥るメカニズム〜後編〜

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ストレスに伴う免疫系の異常としては、ナチュラルキラー(NK)活性の低下がよく知られています。たとえば、免疫細胞が培養ガン細胞をどの程度殺せるかを調べてみますと、健康な人なら100個のガン細胞の内30個殺せるような条件で調べてみても、強いストレスを受けた場合は5個くらいしか殺せないことがあります。NK活性はウイルスに感染した細胞の処理にも重要な働きをしているので、ここまで低下するとウイルスに対して抵抗力が弱くなり、風邪を繰り返したりして、なかなか感冒様症状が治らない原因となります。

すると、からだの免疫系は防御体制を発令します。これが、インターフェロンなどのからだを守る免疫物質の産生です。インターフェロンにはガン細胞などの増殖を抑えるとともにウイルスの増殖を阻止する作用があります。ウイルスに罹患して呼吸器系の炎症が生じた場合、このような免疫物質が病気の悪化を防いでくれているのです。

このような免疫物質は、通常はからだの免疫細胞で造られています。しかし、驚いたことに脳の中でも造られていることが最近の研究で分かってきました。脳の中では、神経細胞と神経細胞がシナプスという場所でセロトニンなどの神経伝達物質を介して情報交換をしています。しかし、このような免疫物質が脳内で造られてくると、神経伝達物質を介した情報交換がうまくいかなくなることがネズミの実験でわかってきました。

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ネズミにウイルスのRNAを投与すると、発熱とともに食欲や行動量が低下します。このようなネズミを感染疲労モデルと呼んでいますが、このネズミの脳の中ではIL1-βやインターフェロンなどの免疫物質の産生が高まっていたのです。この時、セロトニンを介した情報交換が妨げられていることも分かりました。セロトニンは抑うつや不安などの感情とともに、疲労感や痛みなどに深く関わっています。そのため、ウイルス性の風邪に罹患したときに自覚するからだのだるさや全身の筋肉痛、関節痛などは、このような脳の変化が関係していると思われます。そこで、脳内のセロトニン代謝を改善させる作用があるSSRIという薬を感染疲労モデルのネズミに投与すると、ネズミの疲労に伴うからだの反応が改善することも報告されていまして、感染症に伴う疲労にはSSRIが有効である可能性が考えられています。

なお、風邪などの場合は、数日でウイルスはからだから排除されるため、脳における変化も改善して症状は回復しています。しかし、ストレスが非常に強大な場合や長期に持続する場合はNK活性の低下に伴い、からだに潜伏していたヘルペスウイルスなどの再活性化が持続し、脳内で免疫物質が造られ続けるために、いくら休んでも取れない慢性的な疲労に陥るのではないかと考えています。

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慢性的な疲労に陥るメカニズム(仮説:倉恒)

なぜ、脳の中でこのような免疫物質が造られているのかはまだわかっていません。しかし、 感染症などに罹患した場合にはからだを休めて十分に栄養を取ることが望ましいことから、それを誘引するための生体アラーム信号として作用しているのかもしれません。




医師:倉恒弘彦(くらつね・ひろひこ)
プロフィール
大阪市立大学医学部客員教授として、疲労クリニカルセンターにて診療。1955年生まれ。大阪大学大学院医学系研究科招へい教授。日本疲労学会理事。著書に『危ない慢性疲労』(NHK出版)ほか。

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※この記事は、弊社提携先の株式会社FMCC(倉恒弘彦代表)のコンテンツを連載するシリーズです。「疲労関係」の講演や臨床試験など、弊社までお気軽にお問い合わせください。




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