ストレスの正しい理解〜前編〜

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最近は、生活習慣病の原因として日常生活におけるストレスが注目されるようになり、種々の生活環境ストレスに伴う反応は体に悪い出来事のように思われることがあります。しかし、ストレスを自覚したときに生じるストレス応答は、生命を守る大切な働きをしています。そこで、今回はストレスを正しく理解するとともに、生体で生じているストレス応答について考えてみましょう。

●ハンス・セリエのストレス学説
一般の方に「ストレスとは何ですか?」と聞いてみますと、「過重労働や人間関係の悪化などの自分に降りかかってきた刺激」との答えがよく返ってきます。しかし、医学的には外界からの刺激はストレッサーと呼んでいまして、ストレスとはストレッサーよって引き起こされた生体のさまざまな歪をあらわしています。

1936年、ハンス・セリエは「ストレスとは生体の中に起こる生理的・心理的な歪であり、このストレスを作るものが外界から加えられたストレッサーである」と発表しました。このストレス学説では、丸いボールを生体に例えた図がよく用いられます。ストレスのない状態(図1上段)では、ボールには歪は見られませんが、外界からストレッサーが加わりボールが押さえつけられるとボールは少し凹んで歪が生じます(図1下段左)。このボールが少し凹んだ状態がストレスと呼ばれる状態です。日常生活では仕事の忙しさ、気温の変化、人間関係などがストレッサーとなっています。

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図1.ハンス・セリエのストレス学説を示す図 Stresscare.comより引用

私たちは、生活環境ストレスは

①精神的ストレス(人間関係のあつれきなど)
②身体的ストトレス(長時間の残業、過度の運動など)
③物理的ストレス(紫外線、騒音、温熱環境など)
④化学的ストレス(ホルムアルデヒドなどの化学物質)
⑤生物学的ストレス(ウイルス、細菌、寄生虫など)

などと、大別してとらえることが大切であると考えています。

●オオカミとヒツジ(ストレス応答は命を守る大切な反応)

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生体のストレス応答を考えるときに、よく引用されているのがオオカミとヒツジのお話です。草原でヒツジがオオカミと出会ったとします。その時にヒツジは食べられてしまうのではないかと感じて強いストレス状態に陥ります。このヒツジの体の中でみられる反応こそが、生き延びるために必要なストレス応答なのです。

ヒツジはオオカミの動きを素早く察知するため、目を見開いていなければなりません。そこで交感神経の緊張が高まり瞳孔を開きます。さらに、オオカミから逃げるためには酸素や栄養をどんどん筋肉に送らなければなりません。そのために心臓のポンプ機能は高まり心拍数が増えます。酸素をより多く取り入れるため、気管も拡がります。

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また、筋肉を動かすためにはエネルギーとなる糖が必要になりますから、肝臓ではブドウ糖のもととなるグリコーゲンが分解され、血糖値が上昇します。 逆に、胃腸が活動するとそのために緊急性のないエネルギーを割くことになるため、胃腸の働きは休止します。身体の全てのエネルギーが逃げることに集中できるように働くのが自律神経系の役割なのです。

ここで説明しましたストレス状態においておきているヒツジの反応は、命を守るために必要な防衛反応と考えられますが、ヒトが日常生活の中で感じているストレスに対しても同様の生体の反応がみられています。

次回、ヒトが種々の生活環境ストレス(ストレッサー)に遭遇した場合の心身のストレス反応について掲載します。お楽しみに!




医師:倉恒弘彦(くらつね・ひろひこ)
プロフィール
大阪市立大学医学部客員教授として、疲労クリニカルセンターにて診療。1955年生まれ。大阪大学大学院医学系研究科招へい教授。日本疲労学会理事。著書に『危ない慢性疲労』(NHK出版)ほか。

※この記事は、弊社提携先の株式会社FMCC(倉恒弘彦代表)のコンテンツを連載するシリーズです。「疲労関係」の講演や臨床試験など、弊社までお気軽にお問い合わせください。




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