魅力的なヘルスケア事業の「罠」

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東京のナインアワーズというカプセルホテルが、睡眠解析サービスを始めた事がニュースになっている。これ自体は業界的に大変喜ばしいニュースだ。 だがとても気になる点があるので、今回はそこを取り上げたい。

日経XTREND(2022年02月03日)
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/watch/00013/01715/?n_cid=nbpnxr_mled_new

この記事の中で、「東京都や保健所と相談して医療行為に当たらないように工夫した。」とあって、しっかりと事前相談して準備されていることは大変素晴らしい、見本になるべき事例だと思う。しかしながら、特にこの記述が気になる。

「本当は『あなたの呼吸は何点です』といった詳しい説明もリポートに書きたかった。しかし測定結果を基に『病気です』などと記述すると医療行為に近いため、できなかった」とナインアワーズ CEO(最高経営責任者)の松井隆浩氏は話す。」

この記事の書き方だと、こうした測定結果によるアドバイスがすべて医療行為に当たるような見解を当局が示した、もしくは事業者がそのように解釈したと読めるが、これでは、なんらかの身体的計測やスキャニングデータに基づいたアドバイスは、全て医療行為に当たるとも読めてしまう。

これは行き過ぎだと思う。

もしそうなら、何らかの測定データによる生活アドバイスは医療従事者にしかできなくなってしまう。これでは、各種ヘルスケアサービスを立ち上げようとしている後発の事業者は意欲を失い、企画がシュリンクして立ち止まって仕舞いかねない。

まず、この機会に確認をしてみたい。厚生労働省の「医行為」に関する解釈は以下となる。

「医師法第17条に規定する「医業」とは,当該行為を行うに当たり,医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を 及ぼし,又は危害を及ぼすおそれのある行為(「医行為」)を,反復継続する意思をもって行うことであると解している。」

そして、当社メディシンクが企画編集をお手伝いしたガイドブックシリーズの最新刊でも、厚労省と経産省の担当官と何度も協議して、以下の表現としている。

「健康増進や疾病治療に関わる医療機器プログラムの場合、一般的には健康増進のための介入であれば非医療機器になり、疾病治療のための介入であれば医療機器に該当する。(16ページ抜粋)

セルフケアを支える機器ソフトウェア開発の基礎知識」(令和2年版)

ここでは、ソフトウェア開発を念頭に「プログラム」と表現しているが、ソフトウェアは人的サービスを置き換えるものなので同様と解釈して読んで頂きたい。

この睡眠解析サービス開発の目指しているところが疾病治療であれば、医行為や各種センサを使った医療機器相当を活用した医療サービスに該当する可能性が高まるが、「健康増進」や「健康生活アドバイス」とするのであれば、それに当たらないはずで、これを全て医行為と判断してしまうのは違うと思う。

その一方で、プレスリリース内の結果レポートの画像には、どう見ても疾病名などが散見され、かなり踏み込んだ内容になっていて、これが当局に相談した結果なのか?と疑問に感じる内容でもある。

更に記事中で、

「現在、測定後の提携サービスは行っていないが、病院や医療機器メーカーとの連携を強め、22年春以降にはフロントの窓口での治療プランの提示、保健師の配置、クリニックの紹介など、現在より一歩進んだサービスを提供する方針だ。」

とあるので、今後治療サービスの提供を目指しているのであれば、医療機関などと連携するなりして、その入口役を担う可能性を否定しないが、そもそも普通のホテルで医療行為を行う事自体が不可能なので、これを目指す事の方が難易度が高いはずだ。何かチグハグに見える・・・。

今後も、こうしたグレーゾーンの商品やサービスが相次ぐだろうと思うと、このXTREBNDの記事はミスリードになりかねないので、事例として取り上げた。

恐らく日経でも健康系や医療系のメディアならこういう表現にはなっていないと思うと、ヘルスケア事業を企画している関係者の方々には十分注意して読んで頂きたいと思い急遽、筆を取った。

特に難しいのは、こうした健康サービスを企画する際、その提供価値を強めようとすればするほど「医行為」に近寄っていくという罠だ。 コンプライアンスに則り、しっかりとこれを回避しようとすると、それが何の価値提供なのか、それに見合う金額を払う価値があることなのかが途端に分かり難くなるのだ。これは事業企画をする者にとって大きなジレンマだ。 最近、SNS広告などで氾濫している健食や健康グッズの多くに法令違反をしているものも多く、こうした知識を持ち合わせない事業者は、簡単にビジネスにできると勘違いしていしまうのも想像に難くないが、皆さんにはくれぐれも注意していただきたい。

迷ったときは、ぜひ弊社に相談して欲しい。 睡眠計測とアドバイスをセットにしたカプセルホテル提案など、大変意欲的で素晴らしい企画だと思うだけに、良い発展を願うばかりである。

八村大輔