脳疲労とストレス度―疲労と自律神経機能との関係〜後編〜

  • facebook
  • twitter

前回記事のような研究により、自律神経系の活動は、心身の疲れ、睡眠障害、メンタルヘルス障害などで低下することがわかってきました。この自律神経系の活動は脳神経細胞の活動の1つです。そのため脳神経の活動低下を意味する脳疲労の程度(脳疲労度)として、自律神経活動を捉えることができます。

しかし、健常者の自律神経系の活動の程度を分析しましたところ、個人個人の自律神経活動の値は加齢に伴い有意に低下していることもわかりました。これでは、自律神経活動の低下が脳疲労によるものか、加齢によるものなのかを判断することができません。

a2magazine_1
図3.自律神経活動(Log(LF+HF))と年齢との関連

したがって、年齢の異なる人々の自律神経活動の評価を用いて脳疲労度という共通した指数を算出するためには、年齢による要素を取り除く必要があります。

そこで,我々はこれまでに収集した大規模な健常者データを用いて,年齢1歳ごとの自律神経活動値の分散から各年齢における自律神経活動偏差値を算出し,年齢構成の異なる集団においても疲労・ストレス分析に使用できる指標(自律神経活動偏差値,ANA-SS:standard scores for autonomic nervous activity)を考案しました(特許第6550440号)。

この指標は、自律神経活動の程度が偏差値として表されていますので、どの年代の被験者でも50が正常(中央値)であり、自律神経活動が高まると上昇、低下すると減少します。たとえば、ANA-SSが60の場合は被験者と同一年齢集団において上位から15.9%の位置、ANA-SSが70の場合は上位から2.3%の位置の自律神経活動を保有していることを示しています。

私たちは、この指標を活用して脳疲労度(脳疲労度=100-ANA-SS)を算出することに致しました。脳疲労度は50が正常(中央値)であり、60の場合は被験者と同一年齢集団において上位から15.9%の位置、脳疲労度が70の場合は上位から2.3%の位置の脳疲労度状態にあることを示しています。

一方、交感神経/副交感神経のバランスはさまざまな心身へのストレス負荷により上昇することがわかっていますが、加齢に伴う有意な変化はみられませんでした。そのため交感神経/副交感神経のバランスをストレス度として捉えることにいたしました。

体調不良の改善に、ストレッチやヨガなどの柔軟性を高める運動や、アロマ治療、音楽療法、半身浴などの取り組みが進められています。しかし、このような介入に伴う自律神経系活動の変化は個人差が大きく、ある人にはストレッチが良くても、別の人には効果がみられないことも知られていまして、一人一人に適した予防や治療を行うオーダーメイド治療が望まれています。

上述のストレッチやヨガなどの介入の前後で自律神経機能の客観的な指標である「脳疲労度」と「ストレス度」を用いて自分の健康状態を知ることで、自分に適したオーダーメイドな取り組みを作り上げることが可能となります。しかしそのためにはどこでも簡便に自律神経機能を測定できることが必要となります。

そこで、自宅においても自律神経機能の客観的な指標である「脳疲労度」と「ストレス度」を評価できるように、携帯電話を用いた自律神経機能評価のサービスを今年秋より始めることにいたしました(自律神経機能評価コーナー参照)。

現在、自律神経機能などの客観的な疲労の指標を用いることにより病気を予防する対策が進められています。さらに、病気だけでなく、疲労に伴って陥るミスや事故を予防できるような研究の取り組みも始まっています。このような取り組みが、みなさまの健康の維持や増進につながることを心より願っております。




医師:倉恒弘彦(くらつね・ひろひこ)
プロフィール
大阪市立大学医学部客員教授として、疲労クリニカルセンターにて診療。1955年生まれ。大阪大学大学院医学系研究科招へい教授。日本疲労学会理事。著書に『危ない慢性疲労』(NHK出版)ほか。

※この記事は、弊社提携先の株式会社FMCC(倉恒弘彦代表)のコンテンツを連載するシリーズです。「疲労関係」の講演や臨床試験など、弊社までお気軽にお問い合わせください。




自律神経の状態を測定し、脳疲労度とストレス度を客観的に調べるアプリをリリースしました! スマホカメラに60秒指先を当てるだけで簡単測定。無料ですので、ご自身のチェックにどうぞ!
ダウンロードはこちら
集団利用や商用コラボ企画などはメディシンクが窓口です。お気軽にご相談ください。
お問い合わせはこちら