「ヒューマン・プレミアム」の終焉

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今回のa2MAGAZINEは、ヘルスビット社代表の部坂(へさか)英夫氏と八村の共著でお届けします。

アフターコロナ(AC)は、ビジネスにおける根本的なルールが変わる事になる。その最大のポイントは、ビフォアコロナ(BC)時代ではビジネスにおけるメリットであった「対面サービス」がアフターコロナ(AC)やウィズコロナ(WC)時代にはリスクへと真逆になってしまいかねない点にある。

我が国の就業者数6,724万人の内、広義のサービス産業比率はGDPの7割もあり、就業者数に至っては8 割と非常に高いことはご存知だろうか? 一方、第一次産業従事者は224万人(3.3%)と言われている。つまり現代社会の経済の大部分は生存に必須ではない不要不急ビジネスで構成されていることが分かる。

この事は、緊急事態宣言が解除された後も、第三次産業(サービス業や小売業)に対して甚大な影響をもたらす事になる。宿泊業、飲食サービス業」420 万人(6.2%)、「その他サービス業」455 万人(6.8%)の合計、875 万人に対する解雇は既に散見されており、今後それが急増してしまうとすると、仮に1割だったとしても 87.5 万人の失業者となり、直ぐに影響が顕在化する業種になってしまう。雇用の受け皿となる産業が想定出来ない事も同時に問題になってくるはずだ。

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出典:https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/chart/html/g0004.html

これは顧客としても、また就業者においても同様だが、人が人に対面でサービスすることそのものが、リスクとして認識される事になってしまったのだから、金融業、公務員、旅行業、エンターテインメント業だけでは社会が成り立たないのは明白だが、この事実は、社会経済活動に対して想像以上のインパクトになるに違いない。

新型コロナが1名発症しただけで、店舗を閉鎖して洗浄する対応が聞かれるが、そのコストは決して小さくない。今は、緊急対応しているが、それがルーティンになる時のコストは計り知れない。この影響は店舗のみならず、工場、役所など、様々な人の集まる施設も同様である。そして、店舗でのサービス提供だけにとどまらず、授業やセミナーなど比較的小規模な集客イベントからコンサート等の大規模イベントまで企画することすら難しくなってしまった。

これによって、対面によるサービス提供と感染リスクが隣り合わせである事が多くの人々の意識に刷り込まれた事で、生活者、経営者、 就業者、政治家・・・すべての人々の行動が劇的に変わる事になる。感染症の発症リスクは集合人数に比例するので、従来は「集客」が多ければ多いほど事業価値が高まるビジネスが多かった、いわば“多人数がもたらす付加価値”である「ヒューマンプレミアム」は終焉を迎え、マイナス価値「ヒューマンディスカウント」に変換されることになってしまう可能性が高いと考える。

新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年法律第31号)は、強毒性の鳥インフルエンザ(致死率60〜70%)を対象とした法律であり、新型コロナの脅威度では適用対象にならないと考えられていたため、政府は本年3月同法を一部改正し「新型インフルエンザ等」に見做す事にして緊急事態宣言を発令した。重要なのは新型コロナによって同法適用ハードルを下げる判断をした事から、新型コロナが収まっても同じような事態が常に起こりうる点である。もし、次に強毒性鳥インフルエンザによるパンデミックの兆候が現れた場合は、数ヶ月のシャットダウンを企業・家庭ともに実行すべきであり、その場合の対処法を今から具体的に検討しておいた方が良いだろう。

新型インフルエンザ等対策の基本方針は、
1:感染拡大を可能な限り抑制し健康被害を最小限に留める。
2:社会・経済を破綻に至らせない。
である。

ちなみに、従来の季節性インフルエンザの国内感染者数は約1,000万人で、死亡者数は超過死亡※を含めると約1万人にも及んでいるのはご存知だろうか? そして、今年は新型コロナに対する感染予防意識の高まりから、従来型のインフルエンザをはじめとするウイルスへの感染者数が劇的に減少すると思われる。とすると、こうした感染予防意識の高まりと行動変容が継続できれば、例年よりも感染者数と死亡者数を減少させることができるかもしれない。

旧来のコロナウイルス、インフルエンザウイルスは夏場に収束し、秋から冬に活発になる事が知られており、新型コロナも同様の季節性を有すると推察される。要因として温度20 度以上、湿度 50%以上で飛沫感染が減少する事と、紫外線による殺菌効果が示唆されている。東南アジアでは日本ほど明確な季節性は見られないが、衛生環境の違いによる接触感染が原因と思われる。従って、日本の夏場でも油断せず、接触感染には継続した注意が必要である。

社会・経済を破綻させず死亡者を低く抑えている現政権は、様々な批判が多い中でも現段階では健闘していると思われるが、日本における20才から40才の死因トップは自殺であり、失業率と高い相関がある。日本の自殺者数のピークは2003年の3万4,427人(うち、経済・生活問題を原因とした自殺者は8,897人)、失業者数のピークは2002年の359万人であり、ほぼ時期は一致している。2010年以降は雇用情勢の改善に伴う失業者の減少とともに自殺者数は10年連続で減少し、2019年には2万169人(うち、経済・生活問題を原因とした自殺者は3,395人)と1978年の統計開始以来では最少になったが、今後予想される失業率の上昇で自殺者が増えないような政策が求められる。

※超過死亡とは、インフルエンザが流行したことによって、インフルエンザ・肺炎死亡がどの程度増加したかを示す、推定値である。この値は、直接および間接に、インフルエンザの流行によって生じた死亡であり、仮にインフルエンザワクチンの有効率が100%であるならワクチン接種によって回避できたであろう死亡数を意味する。引用元:http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/inf-rpd/00abst.html




今後の企業経営には、感染対策を織り込むことが必須になります。ファイナンス、従業員の行動規範、接客ルール、パンデミック時対応など、今回の緊急事態宣言下における緊急対応ではなく、通常経営の中に対策を落とし込む必要があります。メディシンクでは、ファイナンスと健康指標の専門家の部坂氏と事業継続コンサルの専門家である秋月氏と共同で「感染対策を経営企画に組み入れるコンサルティングサービス」を開始しますので、ご興味ある方はお問い合わせください。
下記から、部坂氏と秋月氏が登壇した、映画『感染列島』を題材にした緊急オンライン座談会「パンデミック映画から学ぶ行動変容と未来」のZoom録画データ視聴が可能ですので、ご覧ください。
https://www.facebook.com/154179495188691/videos/2896105443806351/




プロフィール
部坂 英夫
ヘルスビット株式会社 代表取締役CEO
1980年、野村證券入社。プライベートバンキング、上場法人を担当。2017年、ヘルスビット㈱設立。プロポーション・筋力をスコア化した健康参考指標をクラウドで提供。健康指標の代表格であるBMI(体重kg÷身長m÷身長m)のみの業界に革新をもたらし、「低コストでの健康寿命の延伸の実現」と「筋力を意識した免疫力増強」を促進できる社会の確立を目指している。